二十段
この家には時計がないのに秒針の音がする。僕の頭や身体はゆっくりと狂っていくのだった。慰めてくれる仔犬の瞳はずっと赤くて、心配で眠れないし、机上の鍵盤は空に帰り、鍋の中のシチューも目を離した隙に消えてしまった。それを俯瞰する紙飛行機の操縦席はよく揺れている。
二十一段
透明なナイフで切った身体から流れる血は透明で、それを凍らせて作る氷は、果物を冷やすのに最適だった。
二十二段
人生ゲームの車の形をした駒を見ていたら、すごく気持ち悪くなって、酔ってしまった。
二十三段「モネ」
目の前を通り過ぎる汽車の汽笛に、訛りが残っていた。窓に映る車掌の赤い目。ダイヤの切符。どこへ向かって走っているのかは、春の陽射しだけが知っている。
二十四段  メロン熊。
二十五段 「街路樹と寝息」
太陽も、雲も、ビルも、街の灯りも、この目に見えるもの全てが、映像に見えて、感触も温度も無くて、人の気持ちみたいで、記憶の死骸に名前をつけて収集しているだけのかなって思う。でも、それでいいやって笑ってる。
二十六段
凍りの夢の中で、昨日にさようならをする。不完全な心も、ついさっき弾むように沈んだ夕陽も、死神のような木陰も、100年経てば、誰かのものになるのかな。
二十七段
雪が降っている夢を見て、期待を胸に起きたけれど、儚い夢だった。一瞬、外が真っ青になって、部屋が丸ごと、潜水艦に変わった。もしも、水中でも呼吸が出来たら、水中に別荘を建てよう。
二十八段
想い出の葬儀、摘んだ花、雨が降れば、一瞬で何処かへ消えてしまう。青の匂いがするのは、薮の中だけだし、目に見えるものも全部、月くらい遠くて、さよならも衛星に乗せるしかないみたい。
二十九段
花瓶に生けたい背中、二度と来ない夏、
あなたのいない夜、咲かせた青い花。
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